災害と役割

災害に関するテーマ記事。
ここでは『災害と役割』をテーマにし、自身の経験を踏まえて考えたことをまとめました。
様々な立場からの「役割」を一度考えられたらと思います。
なお、法的な意味における役割などは私の知識不足で曖昧な所も多いため、その点、予めご容赦ください。
大塚光太郎 2024.02.26
誰でも

能登半島地震・津波発生から二ヶ月が経とうとしています。

国の初動の遅さは指摘・批判され続ける必要があると考えますが、今回の震災は規模の大きさをはじめ、多くの人が広域避難を迫られたことや高齢化率の高さ、立地(アクセス)等の条件によって、復旧の遅れが目立っているというのが現状かと思われます。仮設住宅のニュースが少しずつ聞かれるようになったものの、まだまだ復旧・復興=人間の復興には長い時間がかかるだろう(そもそも終わりがない)ことが想像されます。

そうした中、石川県の馳知事は「令和6年度予算案」において、維新の顧問であることを理由に万博の推進へ1000万円もの予算を充てるといったニュースが飛び込んできました。それだけでも信じがたく、頭がおかしくなりそうですが、政府は北陸応援割なるものを実施し、結果的に二次避難者を追い出すかたちになる(これは政府がホテルに順当な費用を補填すればいいだけの話)政策などを進めており、あまりにひどい姿勢に大きな憤りを抱いています。これが国や自治体の「役割」なのか…早急に、そして抜本的に見直され、是正されなければならないのではないか、と私は考えます。

こうしたことは法律などと関わることから、私にとっては苦手な分野なのですが(知識の及ばないところが多くあります)その視点を少し含めながら「役割」といった切り口でテーマ記事を書いてみたいと思います。私自身の東日本大震災のボランティア経験(活動記録)から元々書こうと思っていた内容ではあるため、その経験(の反省)や感触が中心となりますことをご容赦いただければと思います。

※theLetterの記事は私の経験(「被災地・被災者」から学んだこと)であり、ほぼ主観となりますので、あくまでひとつの参考程度としていただければ幸いです。

震災から数カ月後に示された石巻エリアの復興イメージ

震災から数カ月後に示された石巻エリアの復興イメージ

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国の役割(ここで言う国は、政府・政治家といった言い方をしながら広い意味で使っています)

冒頭に書いたように、今回の能登半島地震・津波に対する国の初動はあまりにも遅かったと言わざるを得ないように思います。

防災研究の第一人者である神戸大名誉教授の室崎益輝氏は

被災状況の把握が直後にできなかったために、国や県のトップがこの震災を過小評価してしまったのではないでしょうか。初動には人災の要素を感じます。
https://www.asahi.com/articles/ASS1G2P91S1CUTFL01Y.html

と指摘しています。

また大阪公立大学の菅野拓氏は

(国や県の初動の対応について)見立てるのが難しい中で金沢も被害はあったが、県や政府の現地対策本部が置かれた金沢は割と平時の生活ができたこともあり危機意識が持てない状況から初動の一部の遅れが生じたのでは。
『NHKスペシャル 能登半島地震1ヶ月 限界の被災地 浮かぶ日本の脆弱性』

といった指摘をしています。

私としては明らかに人災の要素があったと思っており、自民党や馳知事(維新)は猛省し、この責任を取るべきであると考えます。(それにもかかわらず、裏金問題などをうやむやにする方向で時間を費やしていることに激しい怒りがわいてきます)。

本来、国は人々の命、健康で文化的な最低限度の生活を守る役割があることから、災害が起こると速やかに災害対応に動かねばなりません。

内閣府によると(地方自治体の役割もここには書かれているので、少し長いですがそのまま引用します)

 災害が発生した場合には、国や地方公共団体は、まず被害の状況や規模等の情報を迅速に収集・分析し、関係者や関係機関に伝達・情報交換することにより、災害応急対策を実施する体制を確立します。災害応急対策の具体的内容は、避難の勧告又は指示、消防、被災者の救難・救助、緊急輸送の確保、公共施設の応急復旧等です。災害の現場となる市町村や都道府県では、災害対策本部を設置するなど、組織をあげて災害応急対策を実施します。さらに大規模な災害の場合には、国も災害の態様に応じて非常災害対策本部(本部長は防災担当大臣)や緊急災害対策本部(本部長は内閣総理大臣)を設置して対策を推進します。
 国においては、各省庁の局長級職員が発災後直ちに内閣総理大臣官邸に参集して、関係機関からの情報、防衛庁、警察庁等の実働省庁のヘリコプターから送られてくる被災地の映像や地震被害早期評価システム(EES)による被害の推計などにより被害情報を把握・分析し、速やかに内閣総理大臣に報告して、基本的な対処の方針を決定します。さらに、地方公共団体の対応能力を超えるような大規模災害の場合には、警察庁、消防庁又は海上保安庁による広域的な応援が実施されたり、都道府県知事の派遣要請により自衛隊が災害応急対策活動に従事したりすることとなります。
 また、被災地に政府調査団を派遣して、より詳しい状況を把握したり、迅速に対策を実施するため、被災地に国の現地対策本部を設置することもあります。

とあり、こうした国の動きは、憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」に基づいて取られるべきものとされていると考えられます。この視点から、今回の対応においては検証がされるべきだろうと思います。

『災害の倫理』では著者のナオミ・ザックは「災害倫理網領」として7つの項目をあげており、そのうち

四.社会契約の義務:民主主義的政府は、統治される人の人生をよりよくするために設立された。それゆえに政府は、そのサービスが災害で一時的に中断する前に、個人による災害の備えと対応の計画・実施を助ける義務がある。政府にはまた、独自の災害への備えと対応を計画し実施することが求められる
六.尊厳:すべての災害の被害者の人としての尊厳は、もっとも重要な道徳的価値のひとつとして守られるべきである
七.ニーズ:災害の備えと対応において、民間および政府の計画立案者は、すべての被害者のニーズに対処しなければならない
『災害の倫理』

の3つで、災害(の倫理)における国の役割を明示しています。

『災害の襲う時』では、著者のビヴァリー・ラファエルは災害時の組織や職務範囲の本質を

災害後の役割を責任との間の一貫性が強ければ、それだけ災害時の対応上の支障は少なくなる
『災害の襲う時』

として、それぞれの機関について、たとえば警察は

非常事態での対応、意思決定、リーダーシップ、通信連絡、住民・財産などの管理のために仕向けられた組織の好例
『災害の襲う時』

とし、軍隊や消防組織も災害時に迅速な動員ができると見込まれていると言います。ただ、そのような組織が対応を開始するかどうかは

・何が発生し、何が必要なのかについての情報
・ニーズをもつ被災者と、相互に連絡・接触できること
・機構体系や権限体制が、ニーズをもつ被災者集団に対する連携的な総合的対応のなかに適切に組み込まれること
『災害の襲う時』

といった要件が必要だとしていることから、これらは上記の内閣府の役割の記載と重なり、国は民主主義国家において災害時に大変重要な役割を負っているとされていることが言えるでしょう。

また、国は上記した被害状況の把握や災害対策本部の設置はもとより、復興構想会議の設置や復興財源を定めるという役割も背負っています。

ナオミ・ザックは

災害は、典型的には、おびただしい量の財産の突然の破壊である。政府は、そのような被害の影響を軽減し(略)事後に被災者を補償する(略)責任があると認識している(しかしながら、政府による財産権の保護は、財産権そのものと同様、所有と使用に先立ちそれらを支える社会的・政治的文脈においてのみ、意味をもつ)。
『災害の倫理』

と言い、財産をはじめとした、人々がこれから生きていくための指針を示す必要性があることを指摘しています。災害復旧事業における補助、融資、税の免除、災害弔慰金や被災者生活再建支援金、生活福祉資金の貸付などなど(これが不十分であることは指摘されるべきだと考えます)「被災地」「被災者」の財産を守ることは国の大きな役割です。

『NHKスペシャル 能登半島地震 いのちの危機をどう防ぐ』では、七尾市の田鶴浜高校の避難所運営をしている水野氏が

今月(1月)いっぱいで炊き出し支援が終わると伝えた。短い時間の間で次の生活ベースを自らの手で探してほしいというお願いもした。国や県、自治体がこの先我々にどのような支援をどのような形でいつやっていただけるのかを早く示していただけることが我々が前に進む力につながると考えている。
『NHKスペシャル 能登半島地震 いのちの危機をどう防ぐ』

と話す場面がありました。これは国が果たすべき役割を果たしているかが問われる(信じがたい)言葉であり、一刻も早く国はビジョンを示し、届ける必要があると言えるでしょう。

『政治のしくみがわかる本』の著者である山口二郎氏は

政治とは、リスクを回避したり制御したりする活動
『政治のしくみがわかる本』

とし、

治水工事をおこなって洪水を防ぐことや、灌漑施設を作ることで食糧を増産することも可能となりました。上下水道の整備、堤防や用水路の建設など、この種の事業には莫大な費用がかかりますが、金儲けにはつながりにくいものです。そこで、国民から税金を集めている政府が、どうしてもこのような仕事を担うようになりました。
『政治のしくみがわかる本』
政治家のもう一つの重要な仕事に、税金の集め方や配分を決めること、つまり税制と予算を決めることがあります。(略)病気、加齢、育児、失業や貧困、自然災害など、さまざまなリスクに対処するために、国民の税金を使っていろいろな支援がおこなわれています。それらをどの程度手厚いものにするかは、国によってちがいがあります。高齢者や子どもに優しい社会か、それとも冷たい社会かは、これまた政治家の腕次第ということになります。
『政治のしくみがわかる本』

としています。

このことから、被災後の補償については、平時の防災に国はどれだけ費用を当てて対策をしてきたのかと合わせて確認されるべきことであるように私は考えます。

さらには、上記番組では同志社大学の立木茂雄氏から、

災害救助法の中にはケアを提供する福祉は入ってない、ということは自治体では地域防災計画でDMATを受け入れるがあっても福祉は発災してから受援をどうするかというタイムラグができてしまっている。
『NHKスペシャル 能登半島地震 いのちの危機をどう防ぐ』

といった指摘があり、上記(別番組)の菅野拓氏からも

災害の法律に福祉の視点が足りない、社会保障の方にも被災者支援が足りないから福祉の手が足らないという話になる。
『NHKスペシャル 能登半島地震1ヶ月 限界の被災地 浮かぶ日本の脆弱性』

といった指摘がされていました。法の見直しといった「役割」も国は負っているわけですが、法を守らない今の国ではそれは無理だと私は考えます。自民党がいかに福祉やケア(コロナ禍でエッセンシャルワーカーが注目されたことも記憶に新しいですが)を劣位に置いているか・置いてきたかが今回残酷な形で浮き彫りになっており(北陸応援割の例を出しましたが)自己責任論や新自由主義的な社会が災害時にどれほどの命を犠牲にし、脆弱であるかを私達は真剣に考えなければなならないと、私は考えます。

行政の役割

上記の内閣府の説明にあるように、各自治体は被害状況の確認や支援体制の確立、避難対応や支援要請などを行っていくことを役割としています。災害が起こると情報が遮断されるため、現場からの情報は大変重要であり、地方自治のもとに自治体は主体的に動いていくことが求められます。

災害という緊急事態への対応はマニュアルがあれどその通りにいかないことが大抵であり、被災自治体の職員は縦割りを廃して協力をしていくしかなくなることが多くあります。それが緊急時の行政の役割となるとある種言うこともできるかもしれません。

県は広域的に状況を把握する立場として後方支援に徹することが多くなると考えられますが、被災した市区町村は復旧・復興を見据えながら、「被災地」「被災者」の生活を支える役割を担う立場となります。ただし、 被災自治体は被災の影響から混乱状態にあったり、人員不足(これは国が合併や自治体職員を削ってきたことなども大きく影響しています)であったりしていることから、被災地域外からの応援職員の力を国や県は派遣し、外部の力を借りながら対応することが望ましいと考えられます。当然、国や県、市区町村は密に連携していく必要があり、被災地外の自治体(等)においては平時に協定を結んでいる地域などとの連携が災害時に役立つだろうと思われます。そうした受援の体制をスムーズに整えるためには、自治体の会長などの権限を複数の人が持てるようにしておく仕組みも重要だろうと考えます。

とはいえ、自治体はあくまで住民(主体)を支える組織でもあります。また、平時は民間が地域を支えている部分も多くあることから、住民のみならず民間とも信頼関係を結んで協力していくことが求められます。

私の活動記録④では

私有地にボランティアが勝手に入って「がれき」を撤去するということがあり、逆に問題になることもある。どこまでをたとえば市(行政)がするかなどを確認して、市(行政)との信頼関係を崩さないようにするなども必要
https://kotaro-kiroku.theletter.jp/posts/91534d00-970c-11ed-ac1b-675d26f725ec?utm_medium=email&utm_source=newsletter&utm_campaign=91534d00-970c-11ed-ac1b-675d26f725ec

といったメモを引用しました。実際、活動記録⑦では住民による行政への不満の声などが上がっている話も書きました。

これは住民と行政との信頼関係をボランティアが崩さないように、といったひとつの例であり、緊急時にこうした分担がすべてよい、あるいは機能するとは限りませんが(上記の縦割りを廃するしかないといった話を含めて)長期的なスパンで見た時に、役割を考えることは重要なことであると実感した経験です。

そもそも行政とは新藤宗幸氏によると

(統治のために)決定された意思の具体的実現
『新版 行政ってなんだろう』

といった機能を指し、

共同生活を営んでいる人びとが決めた意思(政治の決定)に従いつつ、共同生活のために必要な事業を担う雇われた人たちの集団作業である。
『新版 行政ってなんだろう』

と言います。

従い”つつ”であることが重要と私は考えており、フェアレスシティといった地域の民主主義や人権を脅かすような取り決めに抵抗をし制裁を恐れない自治体(行政)という考え・在り方が私は大変重要と考えており、それを一言で言うならば

どのレベルの政府であれ、行政は民主主義をベースとしておこなわれなくてはなりません。
『新版 行政ってなんだろう』

と言えるように考えます。こうした行政が、住民や民間と協力関係・信頼関係を築いていく(おく)事が災害時の緊急対応にあたって重要であり、住民のニーズを元にした政策を国等と(恐れずに)連携して実施する役割があるのではないか、と私は考えます。

住民・「被災者」・支援者の役割

これまで書いてきた通り、災害は住民の生活そのものを破壊する出来事です。(生活を破壊される、または破壊された地に住む人をここでは「被災者」と呼ぶとして)その破壊された生活を取り戻すために、「被災者」は国をはじめとした様々な機関から支援を受けながら、生活を立て直すことを役割としています(正確にはそうした役割を背負わざるを得ない、と言えるように思います)。

言うまでもなく「被災者」は大きなダメージを負っていること、また、人間の対処能力を越えるような出来事が起こり、目の前にその光景が広がっていることから、「被災者」だけにその役割を担わせることは適切ではありません。しかし、被災した町・生活の再建や被災した人の再生の主役は住民(被災者)であることもまた事実です。このように、住民=「被災者」は「被災者」でありながら「支援者」の役割をも担っており、さらに、外部からの「支援者」と連携する役割も担うことになります。

繰り返しになりますが、復旧・復興の主役・主体はあくまで住民=被災者です。その声をもと政策を進めていく民主主義的な行政機能を動かすのは

結局のところ主権者である市民なのです。行政への問題提起が、さまざまなチャンネルを用いておこなわれてはじめて、民主主義にのっとった行政につながるといえます。
『新版 行政ってなんだろう』

と考えられます。しかし、これもまた繰り返すように緊急時は特に住民の力や権利が災害により侵害されていることから、外部からの支援が(権利として)必要となり、とはいえその調整も「被災者」が「支援者」的側面で行うことになります。この複雑さを外部からの支援者は理解する必要があると私は考えます。

外部からの支援者と言っても様々な立場の支援者がいることから、それぞれに背負う役割は異なるでしょう。ただし、それらの役割が「被災地」「被災者」のためのものであるということは共通しているものでなければなりません(何をもって~のためかという議論はここでは一度置きますが、先程上げた私の活動記録・経験の例の本質はその部分にあると言えるでしょう)。

外部からの支援者というのは基本的に黒子役であり、地域の力を支えるということにその役割があります。その中で、「被災者」であり「支援者」である住民(支援者)を支えるということもまた外部からの支援者の役割と言えるでしょう。

災害が起こると、被災の規模を比べるということがどうしても起こります。「誰々よりも」「どこの地域よりも被害(被災)がない・恵まれている」と考えて、自身の傷や思いを口にできない人たちが多く生まれ、それはコミュニティが狭いとより顕著になりがちです。外部からの支援者とはそれを比べる必要はないため、かつ同じ地に暮らしていく人とは異なり利害関係がないことから、傷や思いを吐露することができます。

一方で、「被災者」は時にかわいそうな存在・無力な存在・支援を受けることによって立ち直る姿を見せるべき存在・感謝をすべき存在・お涙頂戴の悲劇や感動を提供すべき存在などといった「被災者役割」とも言える型に当てはめられてしまうことがあります。外部からの支援者が存在しているということ自体が、そういう姿を見せるべきというメッセージに映る「被災者」もいるかもしれません。「被災者」でいたい(被災者役割を背負いたい)という気持ちがある「被災者」もいれば、外部からの支援者に出会い、今だけはそうでありたいと思うときというのもおそらくあるでしょう。そうした時にどう対応するべきかは、とてもむずかしい問題だとは思いますが(自身に嘘をつかず人道的とはなにかを模索するしかないのでしょう)少なくとも「被災者役割」を当てはめることが「被災地」「被災者」の力を削ぐ可能性については理解する必要があり、それは外部からの支援者のひとつの役割ではないか、と私は考えます。

「被災地」の外にいる私たちの役割

この記事の最後に、「被災地」の外にいる私たちの役割について考えてみたいと思います。

これは一言で言えば

忘れられるときが最大の危機
『災害の襲う時』

というラファエルの言葉に尽きるだろうと思います。

災害の影響は長期にわたって及ぶものであり、同時に、社会のしなやかさが試される出来事だと言えます。「被災地」「被災者」を放っておく社会なのか、人命や尊厳を大事にする社会なのか、が時に残酷な形で顕になります。私たちはどのような社会を作っていくべきなのか、そのことを考え、作っていくことは私たちの役割だと言えます。

もちろん、直接なんらかの支援をすることも役割のひとつであり、観光をしてお金を落とすということもひとつかもしれません。「被災地」「被災者」の傷み・傷みを思うことも役割と考えられます。ただし(そこにある苦しみを目の当たりにするならば)平時の社会の不公正を野放しにしていいことにはならないはずです。

ラファエルは

それぞれの社会システムの在り方の違いが、その社会の災害の影響の受け方を大きく左右することは、数多くの調査研究によって明らかにされている
『災害の襲う時』

とし

災害への備えと予防、衝撃の結果、回復力の問題など、すべてが影響を受ける。そして最大の可変要因は当該社会に既存する窮乏、貧困、低開発性、社会的・経済的な脆弱性の程度である。(略)災害を予知し備えその被害を軽減するための技術・資金面の力に欠けている社会、自然災害の破壊力に耐えられない住環境をもった社会、医療その他の災害対応体制が不備な社会などが現存する。道路その他の交通輸送と通信連絡面の不備は、災害発生時の困難を倍加させよう。
『災害の襲う時』

としています。今回の能登半島地震・津波の復旧の遅れはここに示唆されているように思いますが、これは

非大都市圏の地方では、公共事業や農業などの政策が地域の繁栄に大きく影響するので、政治に無関心ではいられません。
『政治のしくみがわかる本』

という一方で、(私を含めた)無関心にさせられている人たちがいる社会構造があるといった結果のひとつではないかと私は考えます。

私たちは私たちが主役であるという役割を自覚しつつ、国や行政にもっと声を届け、動きを注視していい、するべきなのだろうと私は思います。政治に参加することは非常に重要な役割だと考えられます。

災害への備えをするということは、倫理的な事柄であり、義務である。(略)被害を受けるのは市民であることから、開いた民主的な社会において、一般的な災害計画は公開された情報でなければならない。
『災害の倫理』

とナオミ・ザックは言うように、被害を受ける私たちは備え(や補償)を国に求める役割があります。それがきちんと公開され(誰もが知れるような形で)話し合われ、アップデートされていくように取り組む必要があるのです。

こういった点では、いずれテーマ記事で扱うこともあるかと思うため詳しく触れませんが、メディアの役割も私たちは注視しなければならないだろうと思います。地元のローカルメディアと全国メディアとではまた違った視点がありますし、昨今はSNSなどによって個人が発信する(私もこのように発信させていただいているわけですが)時代になりましたが、収益化できることを使って被害・被災のときですら、悪用されるといったことも起こっていますが、そうした社会でいいのか、と、考えなければならないでしょう。そして、「災害の後には戦争がくる」といった話も私はこれまで耳にしてきました。復旧・復興の文脈で「国土強靭化」などといった勇ましく見える言葉が使われることは大変危険なのではないだろうか、と私は思うのです(このことは川島秀一先生が指摘してハッとさせられたことです)。こうしたことを私たちが考え、向き合うこともまた大きな意味での役割のひとつなのではないか、と私は思います。

以上が、『災害と役割』のテーマ記事となります。

ずいぶんざっくりとした内容になり、これまで書いてきていることの繰り返しのようにもなってしまっていますが、災害は多様でも、災害時に人災を防ぐ(反省)ための基本は尊厳や人道という視点であると思うため、今後も似たような記事を書くことになるかとは思います(ので、多様な人の言葉や考えに触れてほしいですし触れたいものです)。

能登半島地震・津波において、一日でも早く落ち着く日が訪れるよう、心から祈り、自身の役割を全うできるように、そしてそれをアップデートできるようにと思います。

お読みいただきありがとうございます。

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